魔法
また。
またなの。
もうやだ。
また『奥さんの話題』
でも、「ふーん」って流せた。
一瞬固まりかけたけど。
そして話題も変わって普通に会話も続いていた。
はずだった。
後ろ髪を引かれる、とはこういうふうに言わないかもだけど。
過ぎ去った話題を背後に感じる。
結局自分で振り向いてしまった。
この『話題』から私は逃げられることはない。
例え彼が話さないことを徹底してくれたとしても、消えるわけではない。
ずっとつきまとう。
ずっと苦しむ。
家庭のある人を好きになったということはそういうこと。
悲しいことに
好きになれば好きになるほど
苦しさも大きくなる。
いつか、その苦しさに耐えられなくなる日が来るんじゃないんだろうか
なんとなく思っていた。
それは今じゃない。
けど、いつまでもつだろう・・・
何度も襲うだろう苦しさへの恐怖と不安に、彼から離れることを少し考えかけて、
出来ない。
もうそんなこと出来ない。
私の生活から彼がいなくなるなんて。
それは考えられない。
考えたくない。
でも苦しい。
どうしたらいいんだろう
苦しくてぼろぼろ泣いて
泣くしかなかった。
そんな夜だった。
泣きながら眠りについた・・・のですけど。
不思議な朝を迎えました。
朝の気配に意識が目覚めてくる。
寝る直前まで確かに思っていた苦い思い。
あの苦しさを絶対覚えているけど。
とても軽やかな朝を迎えた。
いっそ清々しい。
「?」
私はこういう性格なので、『一晩寝たら忘れる』とか『泣いてスッキリする』なんて状況と完全に無縁でいたのですが、私のボキャブラリーではこの状況はそれだとしか言いようがない。
なんで突然、そんなことが『起こった』?
切り替わりの早い人をいいなあと羨んだこともある。催眠術みたいに思い込もうとしたって、私にはとうてい無理だった、よ?
目元も頬もサラサラで。
手にはティッシュが握ったままだったけど。
いつもならこれだけ泣いたら朝には目がぱんぱんに腫れてしまっているのに、それさえも見られないの。
まさかまさかタイムスリップだなんて、してないよねって一応日付も確認してしまった。
なんだろう。
よくわからないけど、スッキリしてた。
昨日の夜は、少し絶望も感じたんだけど。
泣いて寝てスッキリできるなら、これからも向き合っていけるかも知れない。
平気平気平気、絶対平気。
彼と離れたくない。
その分報いがあることも、知ってる。
私、平気。
限界を意識した夜に迎えた不思議な朝。
まるで魔法にかけられたかのように、暖かく穏やかな朝でした。